
イベント
「キルト展」と聞くと、なんとなく敷居が高く感じるかもしれません。
きれいに縫わなければいけない。
技術が高くなければいけない。
経験のある人が応募するもの。
でも、審査員としてこの展覧会に関わっている弊社代表・折尾は、少し違う見方をしています。

審査員:Patch-Work-Life
(左) Chief Creator|丸井康司
(中) Lecturer / Technical manager|福井多倭子
(右) Creative Director|折尾祐希
その人が、なぜその布を選んだのか。
なぜ、その色を重ねたのか。
その一枚をつくるまでに、どんな時間を過ごしたのか。
そんな「つくった人の気配」が残っている一枚です。
高知県黒潮町・入野松原の「砂浜美術館」で開催される、第32回「潮風のキルト展」。
今年も、全国から作品を募集しています。応募締切は10月10日(土)に迫ってきました。

この展覧会の面白さは、作品が展示される場所にあります。会場は、一般的な美術館ではありません。
高知県黒潮町の入野松原。広い砂浜と松原そのものを「美術館」に見立てた、砂浜美術館です。
室内で静かに飾られるはずだったキルトが、海と空の間に出ていく。
潮風を受けて、布が揺れる。
太陽の光によって、色の見え方が変わる。
風が吹けば、作品の表情まで変わる。
デザインを生業としている私たちから見ても、かなり特殊な展示空間です。作品だけを見せるのではなく、作品と自然との関係まで含めて、一つの表現になる。そこに、この展覧会ならではの面白さがあります。
審査員として、毎年たくさんの作品を見せていただきます。もちろん、技術の高さには目を向けます。
縫製の丁寧さ。
色の組み合わせ。
構成の面白さ。
全体の完成度。
でも、それだけで作品を見ているわけではありません。むしろ気になるのは、
「この一枚には、どんな理由があるんだろう」
ということです。
たとえば、誰かのために縫った布が使われている。長くしまっていた思い出の布が、一枚の中に混ざっている。暮らしの中で見つけた色が、作品のどこかに残っている。海辺で風に揺れることを想像して、布や色を選んでいる。
そういう背景は、作品の表面だけを見ても、すぐには分かりません。でも、不思議なことに、そうしたものは作品のどこかに現れます。
これは、私たちのデザインの仕事でもよく感じることです。
技術だけなら、ある程度は学ぶことができます。きれいに整える方法もあります。バランスを取る方法もあります。色を合わせる方法もあります。
でも、「なぜ、この人はこうしたんだろう」という部分は、技術だけではつくれません。
その人が見てきたもの。暮らしてきた時間。好きだったもの。誰かとの記憶。失敗したこと。偶然見つけたもの。
そういうものが少しずつ混ざって、最後に「その人にしかつくれないもの」になっていく。そこに表現の面白さがあると、私たちは考えています。
だから、応募を迷っている方がいたら、「自分は技術が足りないから」と考えすぎなくてもいいのではないかと思っています。
もちろん、コンテストですから、作品としての完成度は大切です。ただ、完璧に整っていることだけが、作品の魅力ではありません。
少し大胆な色の組み合わせ。あえて残した手仕事の跡。きれいに揃いすぎていない布の重なり。
「どうして、ここにこれを使ったんだろう」と思わせる部分。そうしたものが、見る人の記憶に残ることがあります。
デザインの世界でも、すべてを説明し尽くしたものより、少しだけ見る人に委ねられたものの方が、長く残ることがあります。キルトにも、きっと同じところがある。私たちはそう感じています。

ここが、この展覧会の一番好きなところです。
自分の家でつくっていた一枚が、最後には高知の砂浜美術館に出ていく。自分の手元だけにあったものが、知らない誰かの目に触れる。潮風に揺れながら、誰かの足を止める。
もしかすると、何年も前につくった布が、遠く離れた場所で、初めて誰かの記憶に残るかもしれない。
作品は、完成した瞬間が終わりではありません。誰かに見られたとき、場所が変わったとき、自然の中に置かれたとき、また別の表情を持ちはじめる。「潮風のキルト展」には、そんな面白さがあります。
応募するかどうかを迷っている方に、審査員の立場から一つだけ。
「自分の作品なんて」と思わなくていいと思います。応募しなければ、作品は自分の手元にあります。応募すれば、誰かに見てもらえる可能性が生まれます。その違いは、案外大きいものです。
そして、応募した作品が展示され、潮風に揺れているところを想像すると、つくる時間そのものが少し変わるかもしれません。
「この作品は、風の中でどう見えるだろう」
そんなことを考えながら、最後の一針を入れてみる。それも、この展覧会ならではの制作だと思います。
応募期間:2026年9月1日(火)〜10月10日(土)
開催期間:2026年11月20日(金)〜22日(日)
会場:高知県黒潮町 入野松原「砂浜美術館」
部門:大キルト、小キルト、クッション、コースターの4部門
「いつか出してみたい」と思っていた方。「自分にはまだ早い」と思っていた方。今年つくった一枚を、どこかに発表してみたいと思っていた方。
締切まで、もう少し時間があります。一度、作品と向き合ってみてください。その一枚が、海辺で風に揺れているところまで。
今年は、どんな作品に出会えるのか、楽しみにしています。
上手な一枚だけではなく、「この人にしか、これはつくれないな」と思える一枚に出会えたらうれしいです。
あなたの一枚が、高知の海と空の下で、風に揺れる。そんな景色を、ぜひ見てみたいと思っています。
詳しい応募要項はこちらから。
👉 第32回 潮風のキルト展 応募詳細